2024.02.22
以前のコラム「円建てとドル建て」では、たいこうNaviを通じて保有する資産のパフォーマンスについて、ドル建てリターンに為替の影響を加味したものが円建てリターンであることを確認しました。本稿では、世界経済においてドルが中心的な役割を果たしていることを確認し、世界中を対象に投資を行う場合にドル建てで価値を把握することの意味を考えます。
日本国内で靴を買う場合、その値段は円建てで表示されていて、円で代金を支払うことが通常です。しかしその靴が、例えばナイキなど米国ブランドのものであれば、輸入した業者がメーカーに支払うのは円ではなくドルであるケースも多いでしょう。
このように日本の企業が輸入のためにドルが必要になったり、輸出でドルを手に入れた場合には、円とドルを交換する「(外国)為替取引」を銀行などと行います。海外に投資をする場合も同様です。このような為替取引は世界中で行われていますが、その内訳を見てみると、実に9割近くがドルに関するものです(図表1)。国際的な取引の場において、ドルの存在感は圧倒的です。
世界経済の状況を示す様々な統計データもドル建てが世界標準です。例えば「日本は世界第3位の経済大国」と言われますが、この順位は、各国の経済力の大きさを示す「名目GDP(国内総生産)」のドル建てでの値を比較して決められています。
この各国の名目GDPを足し合わせることで世界全体の経済力を把握できますが、図表2はそのように算出した世界の名目GDPが近年どのように変化したかを示したものです。通常用いられるドル建てでの推移に加えて、ここでは円建て換算したものも示しました。
例えばリーマン・ショックのあった2008年から5年間の推移を見てみると、ドル建てでは2009年を除き右肩上がりで、「2009年に一度落ち込んだものの翌年には力強く回復した」という世界経済の実態と整合的ですが、円建てのグラフは落ち込んだ後の数年間は横ばいに近く、経済がしばらく低迷したように見えてしまいます。このように世界全体のデータを円建てで見てしまうと、為替レートの影響が加わることによって、状況認識を誤ってしまうかもしれません。
日本のスマートフォン市場で大きなシェアを持つアップルのiPhoneですが、新機種の日本での発売価格は毎年上がっています(図表3)。しかしドル建てでは、容量が最小のモデルの発売価格は799ドルで変わっていません。アップルが性能を向上させながらも価格を維持していることがドル建てで見るとわかりますが、円建てでは為替レートなどに影響されて、そのような事実が見えにくくなっているのです。
今回、世界経済において中心的な役割を果たしている通貨がドルであることを見てきました。また、特に世界規模で物事を考える場合など、ドル建てではシンプルに理解できるものも、円建てでは為替の影響が加わることで歪んで見えてしまう可能性があることがわかりました。
世界中を投資先とするたいこうNaviのポートフォリオの価値を考える際も、円ではなくドルを基準にすることで、例えば「世界経済が上向いたことで株価が上昇した」など、世界経済の動きとポートフォリオの価値の変化との関係がわかりやすくなります。世界経済の成長とともに自分の資産も育ててゆくという観点からは、為替レートの影響を受ける円建てだけではなく、ドル建てで考えることにも大きな意味があるのではないでしょうか。
世界中を対象とした投資を行うにあたっては、ポートフォリオの価値をドル建てで見ることで、日本だけの事情に左右されない世界の動きが感じられるでしょう。自分の資産を全て円というたった1つの物差しで測るのではなく、ドル建てで価値を把握する部分も持ってみてはいかがでしょうか。
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